生ぬるい風が湿原を吹き抜ける。
「ヌメ―レ湿原。通称"詐欺師の塒"
十分注意して着いて来て下さい。だまされると死にますよ…?」
試験官のサトツさんがこの沼地について説明している。
素敵なジェントルマンだと常々思う。
懇切丁寧に説明してくれているサトツさんに向かって偽者発言をする猿もどき。
それについては突っ込まない。
下手に目立ちたくもないし、何よりここはピエロイベント。
レオリオとクラピカは態々、受け答えしている。
その間に前方軍に混ざる。
クラピカとの深密度も上げたいけど、ピエロイベントはなるべく避ける方向がベスト。
ヒュッ―
とっととピエロが猿もどきを始末した。
こういうときばかりは、感謝したくなる。
絶対、言わないけど。
再び開始された長距離マラソン。
今回ばかりは、しっかりとサトツさんの後を追わないといけない。
ぴたりとサトツさんの後ろについて走る。
「ねーあんた、名前は?…あー、オレはキルア」
「オレ、ゴン!」
「だよ」
そういえば、そうだよね。
前方にいれば、この二人と会うんだよね。
…やっぱり結構いい顔付き。
サトツさんもいいけど、こういう荒削りの少年たちもまた…
こういうとき、ビスケが師匠なんだなぁってしみじみ思う。
「なんだよ、人の顔じろじろ見てさ…」
「うん?ただ、君たちがいい顔してるなぁ~って思っただけだよ」
「ぇあぁ!」
「い、いきなりなんだよ!」
「今度、時間が出来たら描かせてね」
そんなに驚くことかな?
変な声を上げるゴンとどもるキルアの二人の顔はほんのり赤い。
綺麗な桃色だね。
急に霧が立ち込めてくる。
視界は数メートルあるかないか。
「ゴン、。もっと前に行こう」
「うん、試験官を見失うといけないもんね」
「そんなことよりヒソカから離れた方がいい」
「?」
頭に?マークを浮かべるゴンが可愛い。
私もキルアと同意見だと頷く。
「確かに…我慢の限界ってやつかな?殺気が抑え切れていないみたいだしね」
霧が濃くなってから、一気にその気配が強まった。
まったく。場所を考えて欲しいものだね。
徐々に深まる霧で視界が一メートルを切った辺りで、後方からレオリオの叫び声。
反射的に後ろに走り出すゴンを視線だけで見送る。
「…馬鹿じゃねぇの…あいつ…。もそう思わねぇ?」
「う~ん…迷うところだね」
「迷う?どこがだよ?
この霧の中だぜ?折角の合格を棒に振ったんだぜ?」
「ゴンは戻ってくるよ…でもまぁ、あえて言うなら無謀かな」
ゴンについては原作を知っているってだけで言ったわけじゃない。
言葉を交わし、顔を見て、確信した。
あれは、ああいう存在だ。
必ず全てを貫き通す。
それ以上でも、それ以下でもない。
「無謀って言うのは賛成。
けど、どうして戻ってくるなんていえるのさ」
「戻ってくるからだよ」
「なんだよ、それ」
「…戻ってくれば、わかるんじゃない?」
「まったく…わけわかんねぇよ」
不貞腐れて走るキルアと共に二次試験会場に着いた。