彼に会ってから一年。二十歳になった。
その間にビスケからは一人立ちを言い渡された。
太鼓判とまでいかないが、十分とやっていけるだろうと言う程度の評価は貰えた。
あとは経験で、足りないところを補っていくしかない。
ハンター試験は何度も受けろと言われながらも、断ってきた。
どうしても、会わなきゃならない人がいる、あのハンター試験を受けるために待った。
『第287期ハンター試験 申込書』
一呼吸置いて、私は申込書を投函した。
*
試験日当日。
上から黒いキャスケット帽。
スチールグレーのフード付きパーカの上着。ちなみに七部袖。
トップスに手の甲まで隠れるこれまた黒のタートルネック。
腰は栗色の幅広ベルトで締める。
ズボンはくすんだマリンブルーのジーンズ。
一番下は焦げ茶のローヒールブーツ。
目立たないように色を抑えてしまったら、あまりにも飾り気がないので、腰に朱色の紐でアクセントをつける。
最後に必需品たるお絵かきセットが入った鞄を肩にかける。
それが私の現在の出で立ちだ。
この辺りは、ずるになるかもしれない。
すんなりと『ザバン市』で『ゴハン』という店を見つけ出した。
店に入ると、見たことあるような反応をする店主。
「いらっしぇーい!ご注文は!」
「『ステーキ定食』」
「焼き方は?」
「『弱火でじっくり』」
「あいよー」
ウエイトレスに案内された部屋がコンロの火をつけたとたん下がり始まる。
ここまでは順調…。
でも、これから先は分からない。
あのピエロとかに目を付けられないようにしながら行動しなければならない。
念使いだと言うのが、ばれるのは仕方がないことだと思う。
極力目立たないよう気をつけないと…
B100の数字を示したエレベータはガタンと音を立てて止る。
さぁ、ここからだ。
気合を入れなおしてエレベータを降りた。
率直に言えば、『豆』な人からプレートを貰う。
番号は『90』
意外と目立つ数字かなぁ…
胸に着けずにズボンのベルトにつける。
キャスケット帽をやや深く被り壁の端で寝る体勢を取る。
寝れるかどうかは別として、周りを見なくてすむ。
もちろん、ピエロ対策。
他にも活用できた。
「やぁ、君は新顔だろ?」
「……」
寝たふり。
「…もしもーし…」
「……」
寝たふり。
「…なんだ、こいつ…」
「……」
あまり、係わり合いになりたくない人物リストのひとり。
新人つぶしのトンペ…じゃなくてトンパには、寝たふりで何とか乗り切った。
私の美的センスで、あの鼻を直視したら、修正したくなりそうだ。
実際のところ…鼻だけじゃないけどねぇ…
やっぱり、極力見ないように努力しよう。
トンパのためにも。
主人公たちが到着するのはまだまだ先。
このむさ苦しい中で絵を描く気もさして起きない。
寝れるかどうかじゃなくて、なんとしても寝てやろう。
そう意気込んで私は寝ることに徹した。
*
「ぎゃあぁあぁ!!」
騒々しい叫び声で目を覚ました。
そういえば、こういう場面もあったね。
ピエロに腕を切られている受験者を一瞥して、起き上がった。
このイベントが起きたってことはもうすぐ試験が始まるはず。
「…っ…」
欠伸をかみ殺す。
頑張りすぎて、まだ少し眠いくらいだ。
視界に私が求めていた人物が入る。
金髪碧眼。
一見して少女のようにも見える彼。
自然に口元に笑みが浮かぶ。
眠気も一気に吹き飛ばされた。
けたたましいベルの音が響く。
ハンター試験開始の合図。
試験官が歩き出す。
私も周りの受験生に習い、後に続く為に一歩、踏み出した。
さぁ、スタートは切られた。
ゴールは彼ら。