ビスケに弟子入りしてから四年。
同時にこちらに戻ってからの年数でもある。
色々覚えが悪かった私は、やっとビスケに認めてもらえるようになった。
能力は具現化系で、あの頃から大切にしていたスケッチブックとその他諸々の筆記用具…絵を描くのに必要な道具類を具現化できる。
それを使って今では仕事もするようになった。
初めは念が込められた絵の修復が主だったけど、この頃では自分でも絵を描いて売るようになった。
認めてもらえるのは嬉しいけど、あまり金持ちばかりに買われるのも気分が悪い。
そういう時はこういう風に路上で売るようにしている。
最近描いた風景画やコラージュなどを適当に配置。
お客が来るまでは、街や街に暮らす人たちの写生に励む。
お金も稼げて、尚且つ絵も描いていられる。
最高な商売方法だと自負している。
夏と秋の合間にあるつかの間の過ごしやすい時期。
のんびりと久々に路上で絵を売っていた。
お客が来ることは中々ないから、つい写生に励みすぎていた私の視界に黒が入った。
柔らかい日差しに照らし出された黒…彼は私の露店に足を止めていた。
思わず、息が止る。
「…これって君が描いたの?」
「……ぇ、あ…うん…私が描いたやつ」
彼の質問に何とか私は答えた。
黒い瞳。
黒い髪。
整った顔。
額には白い包帯。
…彼だ…
「これって、いくら?」
「そっちの言い値。好きな額でいいよ」
「もし、1ジェニーとかいってもその額なの?」
「そうなるね」
「それって商売って言わないんじゃない?」
「そういえば、そうだね」
ねぇ、貴方は私のこと憶えていますか?
私は憶えています。
貴方が言ってくれたこと憶えています。
私の絵を見てくれる彼が嬉しくて仕方がない。
頑張って顔を引き締めようとするけど、やっぱり笑顔が零れてしまう。
「それ、気に入ったの?」
「あぁ…欲しいと思ったよ」
「ならあげる」
「…いいの?」
「うん……なんだったら、今度会ったときでいいから、モデルになってよ」
今の貴方を描かせてください。
少しだけ目を細めた彼は、絵と私を見比べる。
「そうだね…今度、会うことがあったら、いいよ」
「本当?ありがとう」
絵を手にした彼は、そのまま柔らかい日差しの中に消えていく。
仲間だと言ってくれた貴方。
私は憶えています。
次に会うときは、そういってくれますか?
つかの間なの季節に私は、新しい約束した。