泣いていたのは10分ぐらいだと思う。
途中何度も、目がはれるから擦らない!と注意を受けた。
そのおかげで、あまり目は腫れていない。
「…その…突然、色々すみませんでした…」
「まったくだわさ…行き成り声をかけられたと思ったら、泣き出すし
…あんたの名前もまだ聞いていなかっただわさね」
「………って言います」
。
それが、私の名前…。
名前が、ストンと私の中に入ってくる。
何も引っかかりもない。
という私に戻れたんだと確信する。
「で、。さっきのあれ、なんだったんだわさ?」
「…思い出したんです…」
はっきり覚えていなかった記憶の彼らの顔が鮮やかに脳裏に浮かぶ。
いつも私に仲間だと言ってくれた彼も誰だかわかる。
私は帰ってきたよ。
…貴方は、もう一度、仲間って言ってくれる?
ビスケに一通りのことを説明した。
子供の頃、襲われて、突然別の場所に出てしまったこと。
保護されて今まで暮らしていたこと。
その間ずっと曖昧な記憶でいたこと。
そして思い出したこと。
「どうして、クルーガーさんを見て、思いだしたかはわからないんです…けど、
良くわからないけど、スッと記憶が鮮明になって…涙が止らなくなったんです…
本当にご迷惑をお掛けしました…」
「………」
ポツリ、ポツリと話すそれをじっと聞いていてくれたビスケからの反応がない。
恐る恐る、ビスケの顔を覗くと目が潤んでいた。
「くぅぅ…泣かせるじゃないのぉ~
その仲間って言う子達のところ…私が届けてあげるだわさぁ」
私に渡していたハンカチとは別のハンカチを出して涙を拭いているビスケから思ってもいなかった提案が出された。
皆のところに帰れる……
素直に喜ぶことが私にはできなかった。
だって、このまま帰っても…
また、足手まとい…
もう足手まといは嫌だ…
それに…
一つの決意を抱いて、私はビスケに口を開いた。
「クルーガーさん…あの…」
「ビスケでいいだわさ。あと敬語もいらないだわよ」
「…うん、わかった。ぇっと、ビスケ…お願いがあるの」
「なんだわさ」
時間軸なんて分からない。
けどここは私の世界で、ハンターの世界だ。
なら、皆は彼らだ。
助けたい。
誰一人、欠けさせたくない。
皆の邪魔もしたくない。
だから、止めれたとしても、止めない。
私が強くなって、あの日を変えればいいだけ。
それまで皆のところには帰らない。
「弟子にして」
「……?」
突拍子もない台詞にビスケが唖然とする。
そのまま私は捲くし立てる様に言葉を続けた。
「お願い、ビスケ!
今のままじゃ、帰れない…
私の覚えている皆は強かった…今はもっと強くなってると思うの…
帰っても、また足手まといになっちゃう…それは嫌…
だから、強くなりたいの!
強くなって、最低限、足手まといにならないくらいになりたいの!」
沈黙するビスケ。
どれくらいの期間があるか分からない。
それでも弱いままじゃ駄目。
私は皆の隣を歩きたい。
それだけの力が欲しいの。
お願い…ビスケ…。
祈るような気持ちで私は、ビスケの返答を待った。
「……仕方ないださわさね…
その代わり、仲間のところに一人で帰れるようになるまで鍛えるからね!」
「ありがとう!ビスケ!!」