絵ができたと満足感に浸っていたのもつかの間。
 私は呆然と立ち尽くしていた。


 いつまでも、道の真ん中で突っ立ているのも、通行の邪魔になるなぁ…


 頭の隅でそんな考えが浮かび、ひとまず道の端によった。
 これを人は、現実逃避と呼ぶ。


 人の波を眺める。
 似ているけど、似ていない風景。
 知らないけど、知っている文字。
 ハンター語が町に溢れていた。


 何が起こったの?


 首を傾げ、悩む。
 眺めていた人波に、知っている姿を見つけた。

 慌てて、私は追いかける。


「すみません!そこの…カワイイツインテールの方!」
「私のことですか?」

 私の声に彼女は直ぐに振り返った。
 なんと言うか、自分に素直な人だと思う。

「はい、そうです!」

 人を掻分けて、彼女の元にたどり着く。

「あ、あの…ビスケット・クルーガーさんで合っていますか?」
「えぇ、そうですけど…貴方は…」


 ああ…そうか…


 パズルのピースがはまったように、急速にぼやけていた記憶が鮮明になる。

 ここは、私の世界だ。
 皆は彼らだ。

 いつも、足手まとい。
 それが嫌で、一人で出かけた。
 そこで襲われた。
 あそこの住人ではない、人に。
 必死に逃げた。

 逃げて、逃げて、逃げて、逃げて…

 恐怖は後から後から、ついてきてくる。
 ただ、ひたすら、逃げ続けた。

 怖い、怖い、怖い…逃げなきゃっ!

 何から逃げているのかすらも分からなくなる頃、景色が一変した。

 私は世界という枠を超えて逃げてしまったのだ。


 ぼろぼろと涙が止らない。
 突然、涙を流し始めた私にビスケは見るからに慌てていた。

「いったい、どうしのさ…えっと、ほら、そこの喫茶店にでも入って、落ち着きなさいよ」
「っ…ご、ごめんなさい…」
「事情は落ち着いてから聞くだわさ」
「は、い…っ」


 半ば押し付けられるように渡されたハンカチで目元を押さえながら、ビスケに腕を引かれて喫茶店に入った。

思い出せば、出てくるのは涙ばかりで