拾った獲物は二つ。
 今のところは一つで十分。一方には毒が仕込んであるらしい。なら、これを少年に渡せばいい。
 少年の元に辿り着く頃には、内側の狂気は治まっていた。
 不思議なことだ。
 このまま治まらなければ、少年を殺していただろうに。
 どうしてか、この少年を殺す気にはなれない。

 戸惑いながらも少年はナイフを受け取った。
 初めは、殺さないのかと聞かれて、殺されたいのかと思った。
 聞いてみれば、「いやだ」と答えは返ってくる。
 それなら、受け取れといってやっと受け取った。

 隣に座りなおすと少年が話しかけてきた。
 少年の名前はクロロというらしい。
 次に私の名前を聞いてきた。
 そこではじめて気付いた。

 今の私には名前が『ない』ことに。
 それを伝えれば、クロロが名前を付けると言って来た。

 私に名前を。
 名前をつける。
 私に名前がつく。

 私の中で何かがざわめく。
 先ほど行った狩りも、強く、揺れ動く。

 自然とクロロを見つめていた。
 変わらず、私を映す瞳。

 あぁ、そうか。
 クロロを殺さない、殺せないのは『私』を映すからだ。
 初めて『私』を映したクロロ。
 クロロなら、いい。

 そして、クロロが私に名前をつけた。
*
…どうかしたのか?」
「名前をつけてもらったときのことを思い出していた」
「そういえば、の名前ってクロロがつけたんだっけ?」

 すでにクロロとの出逢いから三年の月日が経つ。気がつけば、クロロを中心に子供たちが集まって一つのグループを作っていた。
 そのグループの一人、シャルナークが、過去を振り返っていた私を今に引きずり戻した。
 恐らくこの中で最少年に当たるシャルナークは、私に甘えるように抱きついてくる。

 ここの子供たちは私を恐れない。
 私をその瞳に映し出す。
 だから、私もこの子達を殺さない。

 金の髪を撫でてやれば、嬉しそうに目を細める。

「あぁ。二日もかけて考えてくれた名前だ」
「そうなんだぁ…いいなぁ~」
「何がいいんだ?」

 少しだけ頬を膨らませるシャルナーク。こういう仕草は本当に子供らしい。

「もし、さきに僕がと会ってたら、僕が名前をつけれたもん」
「……」

 思っても見ない答え。
 本当に、この子達は面白い。
 私に感情を与える。

「ふふふ…そうかもしれないね」

 また一つ感情が増える。
 感情が増えるたびに私に色がつく。
 白だった髪は、今は灰色。

 この流星街で良く見かける空と同じ色。

 私はどこまで色づくのだろうか。

曇り空に溶け込む