予鈴が鳴る少し前に年下の転入生二人は自分の教室に戻っていた。
 人だかりも自然と消える。

 六道骸の手元を見れば、きっちりと教科書はある。
 貸す必要があるのかと思っていたが、その心配は不用だったようだ。
 これといった話題もないので、俺は六道骸に話しかけることなく、そのまま授業に入った。

 午後の授業は二つだけ。
 その間にある休憩中も俺と六道骸は喋ることはなかった。
 ただ何度か視線を感じた。
 話しかけるための視線じゃなくて、何かを探るような視線。

 半分しか来ていないが、やっぱり学校は長いと感じてしまう。
 特にやたらと長い最後のHRがネックだ。
 これさえなければ、もう少し清々しく帰れるというものだ。

 そそくさと帰り支度をする俺の目とあの探るような視線を送る六道骸の目が合った。

「…うん?どうした?」
「いえ、とはどこかで会った様な気がしてまして…さて、どこででしょうか?」
「人違いってことは?」
「…それは無いと思います…」
「ふ~ん…そうか…」

 今朝の夢が思い出される。
 恐らく、そうなのだろう。

 覚えているわけがないと思っていた。
 でも、六道骸は無意識下の元で覚えている。
 輪廻で出会ったことを。

 あの約束を。

?」
「…まぁ、なんだ…会ったことがある、と言えばそうとも言えるし、違うとも言える。
 六道骸が思い出したら、是。思い出さなかったら、否。そんなところだ」

 思い出されない約束は、約束じゃないからな。
 ましてやあの約束は縛る為の物じゃない。
 だから、六道骸が思い出さなければ、それまでのこと。

 にしても、どうも六道骸の前だと、仕事モードに近くなる。
 普段の俺はこんな言い方はしない。
 これじゃ、怪しんでくれと言っているもの同じじゃないか…。

 帰り支度が済んだ俺は、六道骸に背を向けて帰宅した。

「六道骸…か…」

 本当にこの現世…人間道で会うとは思ってなかった…

「…あーなんだ。うん。こうのが、『事実は小説よりも奇なり』というやつだろう…たぶん」

 何かを暗示するかの様に赤と青のオッドアイが頭の中をちらつく。
 嵐が、来るか?

到来の予感は、たぶん、外れない