結局のところ俺が登校したのは昼休み真っ直中。

 まぁ、不真面目なつもりないけど、決して真面目なつもりないわけ。

 通っているのは黒曜中。特にこれといったものもない普通の中学と俺は思っている。
 不良とかいるけど、まぁー普通だろ?

 教室に入れば、普段と変わりない光景ではなく、見慣れない人影が三つ追加されていた。
 ついでに人だかりの山。



「…なんだ、あれ」
「帰国子女の転入生だよ。
 イタリアからだってさ …つーか、よく昼から来る気ありなー。普通だったらサボるって」
「いや、そこはさ。不真面目か真面目かわからないってのがいいんだよ。
 俺のチャーミングポイント的な?」
「なんで、そこで疑問系なんだよ」
「まぁ気にするな」

 入口付近にいたクラスメイトと適当に会話を交して自分の席についた。
 人だかりの隣りというのはなんとも微妙だ。

 転入生ねぇ…

 随分と個性的な人達だ。
 聞き耳を立てていると、三人の内二人は別のクラスで学年も一つ下らしい。
 考えてみれば当たり前か。
 一つのクラスに三人も入るわけはない。

 にしても、転入生同士が知り合いねぇ…。
 妙な引っ掛かりを覚えながら、周りの言葉を拾う。


 学年下の一人目。
 やたらワイルドっぽい、鼻の中央を通る様に横一本の傷があるのが、城島犬。
 犬だと思っていたが、そのままとは…。

 二人目は四角い眼鏡に、左頬のバーコード。少しおかっぱ気味の髪型な彼は、柿本千種。
 何気に猫背気味っぽい。

 最後に俺のクラスメイトであり、奇しくも隣の席になった六道骸…。
 南国の果物を連想させる髪型に赤と青の瞳。
 そして、巧妙に隠されている右目の『六』の文字。


 俺はよく、それを、知っている。


「あなたが、僕の隣の人ですか?」
「…あ、ん……よろしく」


 人だかり山はいつの間にか、広がって俺も囲まれていた。
 座っている六道骸と俺が向き合う為らしい。
 どうせなら、散ってくれた方が嬉しいのだが…。

 周りをやや鬱陶しげに見回した俺に対して六道骸は不思議な笑みを漏らす。


「クフフ…僕は六道骸と言います。よろしく、君」
「フルネームは長いから、好きに呼んでいいよ。折角の隣だし、呼び捨でもOK」
「そうですか?なら、と呼ばせて頂きますね。もどうぞ、骸と呼んで下さい」
「…気が向けば、かな? 六道骸」
「おまえ、骸しゃんの言葉をっ!」
「犬」


 俺の普段通の答に周りは苦笑していたが、二人は違った。
 城島犬は声を上げ、柿本千種は不愉快な顔する。
 当の本人は、優しい声音で声を荒げる犬を黙らせる。

 まるで、上司と部下みたいな関係。
 あーなるほど。だから妙だったんだ。
 知り合いとか、友達同士って感じの関係じゃない。

 初めに覚えた奇妙な違和感は意外なほど簡単に解けた。


「そいつはダメだよ~。
未だに俺達の名前をふつーによばねぇもんな」
「そうそう。自分でフルネームは長いとかいいなが、オレらのことフルネームで呼ぶし」


 険悪な雰囲気を隠そうとしない転入生たちに、俺達を囲っている人山が笑いながら説明をする。どちらかといえば、諦めとか、呆れとかの雰囲気をかもし出している。
 色々勝手に言われるけど、まぁ…楽でいいか。
 そんなんで俺は特に口を挟むこともなく、周りが諦めと転入生達を説得していた。

 何も言わない俺に対して六道骸は、再び不思議な笑みを浮かべる。

「クフフ…変わった人ですね」
「…この場合は、褒め言葉?」
「さぁ、どうでしょうか?」
「じゃ、褒め言葉ってことで」

 お互い様みたいだし。と心の中でそっと付け足した。


平穏という名の日常は簡単にも崩れ去るもの