隈男のよくわからない風の吹き回しに便乗することにして、貯蔵庫付近に向かう。
船の構造なんてものは、大抵似たようなもんだ。
大抵は出払っちゃいるが、まだ船内に残っている奴らもいる。そいつらを三日程度は寝込んでいるように伸していく。
子供達を連れ出すときに起きられちゃ困るってもんだ。
「あ」
馬鹿だ…俺…
伸す前に子供達のいる場所を吐かせりゃよかったんじゃないか。
…最初の予定じゃ、全員倒してから中を手当たり次第に捜すって予定だったからなぁ…
すげぇ、非効率…
内心、溜息をつきつつ、角から聞こえる足音に構える。
次は軽く武器奪って、痛めつけて、子供達の場所を聞きゃいいか。
足音がしない俺にまだ向こうも気づいちゃいないみたいだし、出会い頭に決めるか。
相手の足音と気配でタイミングを計って…3、2、1…
「ご苦労さん」
「ぐへっ」
曲がってきた男の腹を気絶させない様に手加減した拳が決まる。
武器を取り落として、腹を抱えてうずくまる男を見下ろしながら、尋ねる。
「ちょっと聞きたいんっすけど、あんた等が攫った子供達がいる場所って、この先であってるっすか?」
「…っ、てぇ、てめぇは、何者だっ」
「できりゃぁさぁ…手間かけなくねぇんだ…余計な事は言わずに、質問に答えてくれねぇか?」
質問に質問を返してきた男に少しイラっとして、口調が若干戻った。
って…やべぇやべぇ…ちょっと短気過ぎだろ。
短気だってしっちゃいるけど、これは幾らなんでも…短気過ぎじゃねぇか。
忘れっぽくはなってるし、短気もさらに短気になっちまってるし…これも、久々の戦闘でちょっと気分が高揚している…せいだよな。
絶対にそうだよな。
若年ボケなんて絶対、認めたくねぇ…
俺の思考がちょっと別方向にさらに飛んでいく前に、男がべらべらしゃべりだした。
「こ、子供達はこの先のちょ、貯蔵庫にいるっ!真っ直ぐ行って、すぐに左だっ!!
頼むっ!見逃してくれっ!!!俺達は雇われただけだっ!人攫いじゃねぇっ!!!
子供達だって、明日には返すはずだったんだ!!
そういう契約だったんだっ!」
「…へぇ、奇妙なお仕事だなぁ…」
「ほ、本当だっ!信じてくれっ!」
命乞いをするように足に縋ってくる。
むさ苦しい男に縋られて、気分がよくなる奴なんて、サドだ。サド。
あと趣味がイイやつだけだろうなぁ…
俺にはそんな趣味趣向ない。
従って、縋ってきた瞬間、男を蹴り飛ばしていた。
壁に顔を突っ込んで沈黙した男に一応、言っておく。
「…あー…別に自分は、信じないとはいってないっすよ」
何せ、こっちは何が起こっても不思議じゃない。
攫った子供達を明日には返すっていうな奇妙なお仕事があっておかしくはないと思うぜ。
場所も聞いたし、とっとと迎えにいっちまおう。
真っ直ぐ行って、左…っと。
おろおろした見張りを手刀で伸して、邪魔にならないように壁際に寄せる。
服に…血は付いてないよな?
手も大丈夫。
よっし。
鍵が付いていない扉を押す。
一斉にビクッとして、恐怖の顔を向けてきた。
そりゃぁ、そうだよな。
怖い目にあったんだし…優しい面とはいえないけど、なるべく優しく笑いながら子供達に声をかけた。
「もう、大丈夫!家に帰って温かいご飯食べよう!」
「…シャチにいぃちゃぁぁんぁぁあっ!!!!」
子供達が一斉に泣きじゃくって、群がられた。
一人一人の頭を撫でながら、顔を確認していく。
…あれ?…双子の…あの二人がいない?
「…テキィとルティは?」
「んぐ…テキィ…とルティは…ん…朝からいなかったよ…ぇぐん」
朝からいなかった?
…じゃぁ、ここに攫われてきてはいない…
でも…あの時…
――――「…あの、『達』ってことは、もしかして、全員?」
――――「……そうなんだよ」
確認したときも、頷いていたし…
「シャチ兄ちゃん?…」
「…なんでもない。みんな頑張ったな」
男子は何人か男の勲章が増えていたりするが、大きな怪我はなさそうだ。女子も怪我している様子の子のはいないから一安心。
ゾロゾロと子供を連れて船外に出る頃には、騒ぎもおさまっていた。
それなりって奴を、ちゃんと示してくれたらしい。