ちらちらと白い雪が降り始めた中、子供に囲まれた白熊を筆頭に町へと急ぐ。

 白熊のお陰で、一気に子供達が元気になったっすね。
 やっぱり、子供は元気が一番っすよ。

「無事、吹雪く前に送り届けられそうだなぁ?パン屋の店員」
「…そうっすね。この子達は無事に届けられそうっす」
「……ほぉ…『この子供達』ねぇ…」

 隈男が口元を吊り上げて笑う。

 あー…ペンギン男が溜息を…なんか、隈男の変なスイッチが入っちゃった感じっすか…?
 スイッチの切り方とか、ないっすかねぇ…


 つーか、目敏い…。


「兎に角、今は、この子供達を届けるのが先っすよ」
「あぁ、そうだな。パン屋の店員」

 ニヤニヤと笑う隈男に同意され、なんとなく肩がガクッと落ちた。


 ペンギン男の同情の視線が虚しい。

 隈男と白熊、ペンギン男は町が見えた時点で別れ、子供達と俺だけで町に戻った。
 興奮気味の子供達と俺を迎えたのは、町の入り口で捜索隊を出そうとしていた親達だ。

 白熊のお陰か、親を見て駆け寄る子供達に泣く子はいなかった。

 あの隈男を含め、血を出さないやり方で人攫いモドキを倒してくれたお陰ってのもあるっすよね。
 やっぱり血を見ていると見ていないじゃ、恐怖感が違うっすから。

「シャチ君、ありがとう…」

 どこかぎこちない笑顔でお礼を言う親のほか、疑惑の目を向ける親やひそひそと話す親もいる。
 俺はそれらに気づかない振りをしてお礼を言う親に、いつものように笑う。

「大したことじゃないっすよ!
 それより、吹雪いてきちゃいますから、子供達を連れて家に戻って下さいっす」
「あ、あぁ…そうだね。
 ほら、行こうか」
「うん!シャチお兄ちゃん!ありがとう!白熊さんたちにもありがとうって!」
「伝えておくっすよ」

 片手は親の手を握り、もう片方の手を無邪気に振って子供達は家に帰っていく。
 残った子供のいない親…大人たちも俺をちらりと見ながら、家々に散っていく。

 その中で数人、ここに俺が居つくことを嫌っていた大人たちが残る。

「…今回のことは感謝する、が!
 お前が海賊と一緒に町を出て行ったところは見ているからな!!
 それに!テキィとルティだ!あの二人はどうした!」


 …ふ~ん。
 見ていた、ねぇ…

 俺と海賊達が一緒にいるところを見たのは、子供達がいないって俺に知らせてきた…
 あぁ、そういや、そうだった。
 あの気弱野郎。裏じゃこいつらの言いなりだったよなぁ。
 確か借金とかって話だったような?

「……あの二人はいなかったっすよ。
 子供達に聞いたら、朝からいなかったって言ってたっす…家にはやっぱりいないんっすか?」
「…あ、あぁ…そうだ。
 ………まさか…本当に……」


 何を慌ててんだ?
 最初から居ないってわかっていただろうに…今、『本当に』って言ったよな。
 それじゃ、まるで今回は攫われていないようないい…かた、じゃ……

 …俺が子供達の場所を聞くときに尋ねた野郎が勝手に色々って言っていたなぁ…
 『明日には子供は返すはずだった』とか、なんとか。

 実に奇妙なお仕事だと思っていたんだが…っち。
 こいつら…

「………」
「ぅ」

 沸騰点が低くなっているというか、こんなことで怒ることになるなんて、ちょっと驚きっすよ。
 俺はそこまで子供好きってわけじゃないんっすけど。

 隠さずに殺気を混ぜた視線をサングラス越しに向ければ、絡んできてた野郎は呻いて一歩後ろに下がる。
 俺自身というよりもよそ者を嫌っている節の強い取り巻きはその様子にうろたえる。結局は俺に話しかけていた威勢のいい野郎の金魚の糞ってわけだ。


 …やってらんねぇな。


「………雪が、強くなってきたっすね…」
「そそ、そうだな!俺達も戻るぞ!
 お、お前も、早く帰れよ!」


 こんな野郎をやったところで、意味はないっすから。
 見逃すのは今回だけっすよ。

 怯えたように取り巻きたちと一緒に家に向かっていく野郎の背中から視線を外し、町の外に足を向けた。
 隈男達と待ち合わせした場所ではない方向に足を運んでいたはずなのに…なんで、目の前に出てくるんっすかねぇ…

「よぉ、パン屋の店員。待ってたぜ。」
「…どうもっす」
「折角、パン屋の店員が助けたって言うのに、随分じゃないか、町の奴ら」

 俺が違う方向に向かっていたことについては追求せず、町の、さっきの野郎のことを聞いてくる。
 もしかすると他の親の態度のことかもしれないが、隈男の口調からはそれがどちらなのか判断することは出来ない。

「俺は元々よそ者っすからねぇ。
 海軍を呼ばれなかっただけましってやつッすよ」
「ふ~ん…で、『この子供達』以外の場所の目星はついているのか?」
「テキィとルティっすね。
 …それが、実は付いていないんっすよ…多分、『本物』の人攫いに連れて行かれたんだと思うんっすけど…
 この辺じゃ、オークション会場もな「あるぜ」い…」

 思わず、眼を大きく開き、隈男を凝視する。
 サングラス越しにしっかりと隈のついた目と視線が絡む。



「オークション会場なら、あるぜ。パン屋の店員」


賽は転がる。