一対多数。
 多勢に無勢。


 つまり、目の前にいる敵を倒せばいいってことだ。

 気分は上々。

 ついつい、口元が釣り上がっちまう。


 軽く姿勢を屈みながら、隙だらけな鳩尾に拳を入れる。
 骨は折れないが、十分内臓にダメージが行く。
 剣を落とし、九の字に折れ曲がる体を見届けることなく、後ろから剣を振りかざす野郎の顔面に蹴りを入れる。
 鼻の骨が砕け、鼻血を撒き散らしながら、仰向けに倒れ込む。


 …あ、やべぇ…
 ほんの数秒前に血はやめようって…あーあー…


 だらだら鼻血を流す野郎を見て落ち込んでいる俺を挟み撃ちにしようと、両脇からそれぞれ剣を構えた野郎が襲ってくる。

 この角度からじゃ、また血を出すよなぁ…
 しゃーない。避けるか。

 俺的には十分交わせる間合いぎりぎりまで引きつけようとしたら、白いのが上から降ってきた。

「アイヤーッ!」

 ドスっと一人の横っつらを蹴り飛ばし、降ってきた白いのに茫然としていたもう一人も同じように蹴り倒す。

 おぉ…結構いい動きするっすね。

「白熊さん」
「ヤァッ!あ、パン屋のお兄さん」

 更に斜め横から此方を狙っていた奴も軽やかに蹴り倒し、構えをとる白熊は顔だけ此方に向けてきた。

「キャプテンもすぐに来るって」
「…そうっすか」

 追ってくるテンポが遅いから、忘れてた…
 …まぁ、存在忘れていた言い訳だよなぁ……俺って、こんなに忘れやすかったけ?
 久々の戦闘で色々高揚してるせいだよな。うん。

 そうしておこう。

 悩んでいる間も敵さん方はわんさかと群がってくる。
 それを白熊と手分けして伸して行く。

「あー白熊さん。できれば、血を流さないようにお願いするッす!」
「ん。いいよー」
「ほら、やっぱり…って、いいんッすか?」
「うん」

 縦に首を振るのは見間違いはない。
 …こんなに素直に聞いてもらっちゃってなんだけどさ…いや、まぁ…聞いてくれるには越したことはないけど…不気味といえば、不気味だよな。

 これだけの乱闘にも関わらず銃を使おうなんて、馬鹿が出たらしく、視界の端に捕らえた銃に内心呆れて溜息が出た。バックステップで一旦距離を取るかと思った時、俺の独特の勘が警戒を発した。

 この場から離れろと叫ぶ勘に従うよう、全力で跳躍して離れようとした直後。少しばかり聞きなれてしまった声が聞こえ、思わず踏み留まっていた。

「『ROOM』」

 隈男の声と共に不思議な『円』が俺達を囲う。
 十中八九、能力によるものだ。


 …悪魔の実の能力者…こっちもビンゴか。


 『円』の中に囲われた連中は、悪魔の実の能力者がいるとあたふたしている。狙いを定めようとしていた奴も同じだ。
 この能力がどういうものか気になるが、今のところ体への影響はない。なら先に、あっちを片付けちまうか。

「シャンブルス」

 気を取り直して、一歩足を進めた矢先に奇妙な浮遊感が襲う。反射的に攻撃姿勢を取るが視界にニヤニヤした隈男の姿を入れて、肩を落とした。


 …遊ばれているように思えるのは気のせいか?……


 顎をしゃくって俺がさっきまでいた位置を態度だけで見ろと言われ、渋々視線を投げればペンギン男がいた。

 …?

「…あーえー…何をしたんッすか?」
「ペンギンとお前の位置を入れ替えた。
 子供たち助けに来たんだろ?
 見ず知らずの俺達よりも顔見知りのお前が捜しに行った方が色々面倒にならないはずだぜ?」
「いや…まぁ…確かに、そうッすけど…」

 全部倒した後に探す予定なんだけどな…
 いったいどういう風の吹き回しやら…

「ここは俺達に任せておけ。パン屋の店員」
「……」

 ふん…まぁ、いいか。

「…わかりましたッす!
 じゃぁ、俺は子供達を捜しに行くんで…あの、気をつけてくださいッす」

 くるっと隈男に背を向けて船内へとお邪魔する。
 居るとしたらやっぱり貯蔵庫付近ってところか…



 …ちょっと甘いが、借り一つ、としてカウントしといてやるか。


それなりの基準