昨夜に降った雪が丁度いい具合に固くなっているおかげで足跡はばっちり。
 どっちにしても、大人数で行動していたせいで、あちこちに痕跡を残している。

 人攫いって言っても、所詮『この辺』の人攫いってことか。
 こんなに、くっくりと跡を残しちまうなんて…お粗末過ぎる…


 まぁ、おかげで軽快に辿れるけど。


 う~ん…早く迎えに行ってやんないと、ヤバいかなぁ?

 段々温かくなってきているけど、やっぱ、ノースだけあって、まだまだ寒い。
 毎晩、飽きることなく雪が降ってるし。


 空を見てみても、ノース特有の雪雲が出始めてる。


 雪が降り始める前か、直後ぐらいには、お迎えを終わらせたい。

 んーどうっすかなぁ…
 この隈男達の実力は、まぁ、この辺あたりの奴らにしちゃ、強い分類…か?
 比較対象が、新世界の連中ばっかだから、少しあやふやだけどさ。

 陽動…頼んで、その隙に子供達を助け出してもいいけど、これだと隈男達が失敗した時、子供達が危ないし…
 逆に俺が陽動やるっていう手もあるけど、子供達はシャイだし、この状況下で、知らない奴が助けに来てくれたって思うことの方が難しい。
 下手すりゃ、逆にギャーギャー騒いで、見つかっちまうかも…
 あー…やっぱ、先にとっとと人攫いを全員倒しちまって、お迎えすんのがベストだな…こりゃぁ。

「あ、船?あれかな?」

 白熊が岩陰に隠れた船を見つける。
 ちょうど崖の下にある。

 あれなら簡単に乗り込める。

「足跡はもちろんだが、子供の人数考えても、船じゃないと移動出来ないはずだ。
 …あれで、間違いないはずだ」

 ペンギン男が白熊に同意する。

 まぁ…これだけ跡が残っているのに間違う方が難しいって。

「どう乗り込むつもりだ?」

 視線を船から声をかけてきた隈男に移す。

 隈男のくせに目がランランしている。
 面白がっているのが丸見えだっての…

 …一応、振るっておくか。
 いざって時に使えないと意味がないし。


「……そうっす、ね…
 じゃ、『上』からってのは、どうっす?」
「『上』?」
「そうっす。『上』からっす」

 仮にもグランドラインに今から行こうってんだから、これぐらいのことで怖気づかないよな?

 もし、怖気づくようなら、行くなんてやめとけ。
 あそこは、『甘い』場所じゃねぇ。

 てか、邪魔になるだけし…子供たちの精神面に対しては、俺が手を抜けばいいだけの話だからなぁ
 いくら、本気だとしても、使えなきゃ、来てもらった意味はない。
 この場で、『捨て』て行くだけだ。

 さて…どんな答えが返ってくるか…


 じっと隈男を見れば、口元を釣り上げて、不敵に笑った。

「…くっくっく…いいぜ、それで行ってやろう」

 それなりってか。
 んー…こういう駆け引きっぽいの、久々でちょっとテンション上がってきたかも。
 船の真上にある崖、ぎりぎりに立つ。
 冷たい潮風が下から吹き上げる。

 下には誘拐犯ご一行の船。

「んじゃ、俺、先に行くんで」

 見本と称して、崖から身を躍らせる。

 頬を冷たい風が切るが、今は少し気持ちがいい。
 テンションが上がっているのがよくわかる。

 見張り台の奴と目が合って、にやりと笑う。
 驚いている表情の見張りの胸倉をついでに掴んで引き摺り降ろしていく。

 マストに広げられた帆をクッションにする際、掴んでいた手を離してやり、俺より先に見張り台の奴を降ろしてやる。
 短い悲鳴と少し変な音も聞こえた。


 あーあー…首の骨が逝ったな…ちゃんと受身とらねぇから…


 そんな感想を抱きながら、ざわつく甲板へと降り立つ。
 いきなり降って湧いた俺と落ちてきた見張り役の奴。

 誰もが唖然としている。

 こんな無防備の状態を態々見逃すことはない。
 相手が敵と言う認識を持つ前に、俺は一番近くにいた奴の顎を砕くように殴りつけた。


 手に残る砕けた感触。
 う~ん…こんな感じだったか?

 ちょっとばかり、こういうことに離れすぎていて感触を忘れている。
 いや、力加減は覚えているから問題はないけどさ。



 ん…結構、テンション上がり気味だな…
 あんま、箍が外れねぇように気をつけねぇと…

 子供達と会うときに血塗れって、やばいよな。

隠してあった『牙』で、噛み付く。