時々来るお客さんとおしゃべりするほかは、ボーっと過ごしていると、あっという間に時間が過ぎた。

 時計の針は四時半を少し過ぎた辺りを指している。
 今日は、早めに店を閉めるから日だから、もうそろそろ閉店の準備でもするか。

 店のドアノブにかかっている札をCLOSEに変えてしまおうと店の外に出たら、昼間会った白熊のほかに…帽子を被って目元が見えない男と…熊男、いや、隈男がいた。

 隈男の手には、白熊に渡したはずのバスケット…。

 …すげぇ…ミスマッチ。
 あ、もしかしてこれがこれがシュールって言うやつ?

「今、失礼なこと考えただろ」

 ははは…疑問系じゃなくて、断定しているよ、この隈男。

 自分の悪口には敏感な奴っているんだよね。
 もろにそのタイプだ。

「いや、滅相もないっすよ。白熊さんの…」
「キャプテンだよ」

 お友達?お仲間?とどちらを聞こうと迷った一瞬に白熊があっさりと答える。

 あ、キャプテンっすか。
 そうっすよねぇ…。

 どう見たって、この二人と一匹の中じゃ一番強いだろうし、気配の気配り方も一番上手いしな…
 …あと、多分、勘だけど。
 この隈男。

 悪魔の実の能力者だ。

 でも、まだまだなレベルだな。
 これからグランドラインで、揉まれて、生き残れば、そこそこの海賊になる素質はあるっぽいけど。

 ちょっとだけ無言になった俺に白熊が話しかけてくる。

 てかさ、なんで、キャプテンがいるッスかねぇ?
 お仲間もお一人ついてきてるし…
 予想外過ぎっすよ。

「でね、パン屋のお兄さん。
 俺がもらったパンの…どれくらいだっけ?ペンギン」
「三分の一とちょっとだな」
「そうそう。三分の一とちょっとをキャプテンが食べちゃったんだ。
 それでね。
 俺が感想言うって言うや約束してたでしょ?」
「…あぁ…うん。したッすね」

 …つまり、あれか?
 キャプテンが食べちゃった分の感想をキャプテン、ご本人が態々言いに来たってことッすか?

「だからね。キャプテンが食べた分は、キャプテンが感想を言うことになったんだ」

 え、マジ?

「俺が言うのは不服か?」
「ち、違うッすよ!そんなことないッすよ!」

 驚いただけだから。
 てかさ、マジにびっくりだよ。このキャプテン。

「あー…そうだ。店先で感想聞かせてもらうのもあれッすから、よければ中にどうぞっす。
 もう、閉店するだけっすから問題ないっすよ」
「…ふ~ん…こんな早い時間からか?」
「定休日みたいなもんッすよ。二ヶ月に一度、早く閉めるんっす」
「そうか…」

 扉を開けて中に促せば、隈男…キャプテンが先頭を切り、白熊、ペンギンと呼ばれていた男が入っていった。
 元々やろうとしてた作業、ドアノブにかかっている札をCLOSEに変えて、俺も中に戻る。

 椅子を人数分引っ張り出した後、たっぷりとお話を聞かせてもらった。
 途中、白熊とキャプテンとの脱線で、ものすっごく、時間がかかった…

 気がつけば、実に二時間半。
 ありえねぇ…

 流石にこれ以上、店にいられると閉店の準備ができねぇからな。
 帰ってくれると嬉しい。

 …うん?

 カランカランっと扉が開く。

「こんばんは……今日はもう、閉店になりますけど?」
「シャチ君!まだいてくれたんだ。よかったぁ…」
「どうかしたですか?」
「子供達を見なかったかい?もう日が暮れるんだけど、まだ帰って来なくて…遊びに夢中になっているだけかもしれないけど…
 ほら、こないだ三つ先の町で人が数人消えたって話があるだろ?
 あれがあるからちょっと気になってね…」

 二ヶ月前のあれか…。
 人が消えた事件って、簡単に言えば、人攫いだよな。
 この辺じゃ、珍しいけど。

 …うん?子供達?

「…あの、『達』ってことは、もしかして、全員?」
「……そうなんだよ」

 ……全員か。
 全員ねぇ。

「わかりました。俺もちょっと子供達が遊んでそうなところを見てきますよ」
「あぁ、そうしてくれると助かるよ」

 再びカランカランと音をして、扉が閉まる。

「…って、わけでして…申し訳ないんッすけど…店閉めて探しに行こうと思うんで」
「まぁ、そうだろうな…店を出るぞ」
「アイアイ!キャプテン!パン屋のお兄さん、パンありがとうね」
「こっちこそ感想ありがとうッす」

 終始無言で、時々脱線する話を視線と溜息で戻してくれていたペンギン男も軽い頷きを返す。

 ペンギン男のお陰で、二時間で、すんだんだよなぁ…あんたには感謝するよ。

 入ったときと同じように二人を後ろに連れて、店を出るキャプテン。
 カランカランと扉の音が店に響いたのを見届けた。





 店の掃除は後回し。
 売り上げを金庫に仕舞って、エプロンをフックにかけて店を閉める。

 必要なものは常にヒップバッグに入っているから、問題ない。

 それじゃ、探しに行くか。


 裏から店を出れば、さっき店を出て行ったはずのキャプテンと白熊とペンギン男が待ち構えていた。

 ……なんで、いんだよ。

 少しばかり予想外で、ぽかんとしている俺に、キャプテンがニヤリと笑って言った。




「俺達も手伝ってやるよ」



停滞宣言