「キャプテン!!」
「…なんだ、ベポ?」
「……」
船に嬉々として戻ってきたベポに内心、首をかしげながら、その手に抱えているものに眼が行く。
……バスケット?
昨夜、ベポが今朝の朝食予定の魚を全部食べたため、罰として朝食と昼食抜きとなった。
そのおり、船長と喧嘩をし、落ち込んでいたはずだ。
落ち込み過ぎて、今日は何も言わずに船を降りていた。
それに船長も、やり過ぎたかとほんの少し落ち込んでいた。
そこに帰って来たベポは、昨夜の落ち込み具合が嘘だったかの様に嬉しそうだ。
「俺、すごいって!喋って褒められた!」
パンがたくさん入ったバスケットを抱えて、ニコニコと船長に報告する。
「…ほぉ…そりゃ珍しいな…よかったな。
で、そのパンはなんだ?
昼食は抜きのはずだぞ」
バスケットごと取り上げようとする船長からベポは逃げる。
「駄目。キャプテンでも、あげない。
このパンは俺が食べて感想聞かせる約束なの」
「………」
「………」
火花が散って、本格的な追いかけっこが始まる。
パンが取られる前にと、ベポは走りながら、口に放り込む。
その幾つかは、シャンブルスの声と共に船長の手へと。
大人気なくなく、能力まで使用している。
船長の手へと渡ったパンを取り替えそうとベポが果敢にも挑む。
アイヤーと甲高いが船に響く。
次は船長が避けながら、パンを食べる。
慣れない物を食べて、あとで、どうなってもしらないからな。
密かに溜息をつきながら、二人の追いかけっこを目で追っていれば、最後のパンが中に舞うのが見えた。
そのままパンは、何気なく俺に向かって落ち来る。
何故、俺なんだ…。
他にも追いかけっこを見守っているクルーはいる。
その中であえて、俺に向かって落ちてくる…
パンに罪は…ない。
食べ物を粗末にするのも気が引けるからな…
再び溜息をつきながら、仕方がないと、パンをキャッチした。
「………」
……柔らかい…
あれだけ乱暴にされていながらも、柔らかさは失われていない。
思わぬパンの感触に驚いていた俺の目の前に白い手が二つ…一つは白い毛に覆われた白熊の手。もう一つは、血色が悪い手が出された。
「「ペンギン!!」」
…………。
「「アァー!!」」
「……半分にしただけだ…」
出された手に半分にしたパンを置く。
「「……」」
文句らしい視線がくるが、取り合う必要はない。
お互いパンと相手の顔を見て、同時に口に入れ咀嚼し、飲み込む。
「「……」」
「………で、感想はどうするんだ」
にらみ合ったまま、進展しそうもない。
三度目の溜め息を吐き出しながら、事態を進める様、質問を投げる。
律儀に感想を言いに行かなくてもいいが、先ほどのベポ様子を見る限り、感想を言いに行く筈だ。
そうとなれば、船長が食べてしまった約三分の一とちょっとについてどうるすかとなる。
一番の解決策とするなら、船長がベポと一緒に感想を言いに行くことだ。
…味わって食べたかどうかは別の話になるから、置いておくとして…
だが、船長が興味のない相手に…そうでもないな。
ベポが喜んだ時点で、興味の対象に入っている筈…
…まさか……それを見越して食べたのか?
ベポが喜んだ相手を見に行く為………………いや、さっきのは、違うな………
目の前で、責任とれやら、ないやらと言い争っている以上、そんな計算が入っているとは思えない。
オンオフと言うわけでないが、温度差がある。
世間では、冷酷非道と容赦ない奴だ言われいる。
それはそれで正しい。
確かに船長は敵に対して、容赦ない性格だ。
だが、俺達だけがいる船上では…さっきまでのような追いかけっこや、目の前で繰り広げているような言い合いなど、いつもこんな感じだ。
「どうせ、キャプテンは、このふかふかで、おいしいパンの味なんてわからなかったんでしょ?」
「ふっふっふ…そこまで言われて黙っていられないな…いいぜ!感想を言ってやろうじゃないか!」
一先ず、どうにかなったか…
これを渡し奴は、災難だな。
「………」
…思えば、ベポにパンを渡すこと事態、おかしな事だ。
ベポのつなぎには、俺達と同じ様にハートの海賊団のマークがある。
そこそこ名が上がってきたばかりで、俺達ハートの海賊団だとわからないまでも、海賊だと言うことはわかる筈だ。
毒が入っていないことは、ベポの嗅覚と船長の味覚で判明している以上、さっきのパンは普通のパンだったと言うしかない。
単に海賊と気づかずに渡した天然か、あるいは、海賊と知りながらも渡した変わり者か。
「…どっちに転んでも、変わらないか…」
――…ハッ
「―クシュン!…クシュン!」
「シャチ兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、うん…大丈夫。
ちょっと鼻がむずむずしただけだから」
……誰か、俺の噂でもしたか?