さっき会った白熊は、すごかった。
 二足歩行の上に喋る。
 二つ目が特にすごいよなぁ…



 やっぱ、こちらの世界は侮れないなぁ…


 世界は広い。
 どんなことが起こっても、不思議じゃない。
 起こった事を事実として受け止めないと、生きていけない。

 これが、こちらに生まれてからの俺の認識だ。

 だってなぁー…
 記憶持って、生まれ変わるなんてことを体験すれば、否応なくそうなると思う。
 生まれ変わると言う認識も記憶があることが前提だし、記憶がなきゃ、そんなことはわかりっこない。

 でな、それだけじゃなくて、なんと生まれ変わった場所は週間ジャンプで連載していたワンピースときた。
 別にワンピース目当てで買っていたわけじゃないけど、読んでいたから大体の内容はわかる。一応、アニメも見てたし。
 ルーキー登場辺りはいい感じで好きだったな。

 それで、もう少し詳しく言うと生まれた場所はワンピースの新世界ってところに分類されるところだったんだ。



 死亡フラグ立ちまくり。



 一般人でも、海賊でも、海兵でも変わらない危険度。

 一般人=無抵抗に殺されるのは断固拒否。
 海賊=殺す云々の前に、誰かの下につくっていうのもなぁ…。無理そう?
 海兵=絶対正義なんて、ないものを掲げるつもりもない。


 ある程度、危険に抵抗出来て、無抵抗な人を殺さずに、自分なりの基準が持てる自由職=賞金稼。

 自分的には無難な選択だと思う。

 危険に足を突っ込むことに対しての抵抗はない。
 てか、なくなっていた。
 記憶を持って生まれたせいなのか、欠陥品のようにどこかネジが一本外れてしまったらしい。


 そのせいで歯止めがきかなくて、海軍と正面衝突。
 狩る側から一気に狩られる側になった。
 新世界限定なんていう、特殊な手配書。
 海軍も色々あるよね。

 追いかけられる日々…と、までいかないけど、いい加減うざくなるほどには、追いかけられた。

 こちらの家族は俺が知らない内にどっか行ったし…
 元々あまり帰る家じゃなかったけど、こちらじゃ、あそこが、帰る場所だった。
 それが、帰って見れば、マジにもぬけの殻で困った。


 だからこそ、全部投げ出して行こうなんて思えたわけ。


 帰る場所はない。
 血の繋がりもいない。

 ちょっと惜しかったのは、名前かな。

 手配書の名前はあっちの名前だったりする。
 あっちってのは、こちらに生れる前のところ。
 現実とか、現代とか表現出来るには、出来るけど、これを使うとこちらが現実じゃないみたいでな、使いたくない。
 俺はここで、生きている。
 生きている場所は現実だろ?


 で、ぶっちゃけた話、あっちとの繋がりがあることを示したかったんだと思う。
 だから、賞金稼ぎを始めた際にあっちの名前を、名乗ったんだ。

 それも今や、新世界のお茶の間に無料配布された。名乗れないだけで、確かにあっちの名前は手配書を媒体にして根付いたんだ。


 …惜しいとは思うけど、手放すことは出来る。


 だから、これからは、こちらでもらった名前だけで生きていく。

 これが普通だ。
 普通なんだよな。


「シャチ兄ちゃん!いつものパンください!」
「お、今日もお使いか?いつも偉いな」


 うーん…欲を言えば、誰かに知っていて欲しいかもしれない。


 あっちの名前=こちらの名前だってことを、さ。



 いつか、誰かに言いたいな。
 同じだって。
 どっちも俺だって。



手放したモノへの、欲。