失敗した。
思わずやっちまった。
そう思っても、後の祭り。
あぁーあ…、小遣い稼ぎのつもりが…
こんなことになるなんてな…
はぁ…
新世界限定っていう特殊な手配書に目を落とす。
はぁ…
溜息しか出てこない。
後悔先に立たず。
まさにその通りで、やってられない。
どうっすかなぁ…
何もかも、煩わしいものを全て投げ出して、新世界を出て、早五年。
ノースブルーの一角に腰を落ち着かせた。
いつまで、いられるかわからないけど、どうせなら、このまま、骨を埋めたい。
それくらい平和で、時々刺激がある町。
グランドライン入口からちょっと外れたこの町は、ノースブルーでも比較的暖かい地域で、太陽がよく顔を出す。
夜に降り積もった雪に太陽の日が煌めき、非常に眩しい。
その眩しさに、サングラスが手放せなくなった。
おかげで、近所の子供たちには、サングラス=俺と言う公式が、出来ている。
曇の日に久々に外してたら、誰?って首傾げられてショックだった。
今じゃ、寝る時以外は、つけっぱだ。
居候しているナジャさん…本当はもっと長い名前だけど、誰も覚えられなくて、縮めた名前で呼んでいる。
そのナジャさんがやっているパン屋の手伝い中でも、サングラスはそのままだ。
この頃は、店番以外にも、パン焼かせて貰える様になって、そのパン目当てにやって来てくれる人もいる。
純粋に嬉しい。
今日はそんな新たなパンを作ろうと試作品作り。
『こちら』に生まれてから、二十五年。
うろ覚えとなったワンピースのオープンニングを鼻歌いながら、焼けたパンを竃から出す。
こんがりと焼けた香ばしい香りが鼻を通り、胃を刺激する。
うん、良い匂い。
まずは、試食第一号は俺。
その後出せそうなものを選んで、さらに俺以外の人に試食して貰うという手順を踏んでいる。
店番しながら、試食タイムと行こう。
まだ温かいパンをバスケットに入れ、奥の作業場から店内に移動する。
レジに座り込んだところで、ガラスに張り付いている白いものが目に入った。
……ありゃぁ、なんだ?…
………白…熊?
ここはノースブルーだし、白熊がいてもいいけど…
いったい何で、ガラスにへばり付いてるんだ?
ガラスにへばり付いた白熊から視線を外さずに、試作品の一つを口に入れる。
あ、涎。
…腹へったんのかな?
……。
試作品の入ったバスケットを持って、店の扉を開いた。
「…白熊さん。あー…その、腹減ったんなら、これ食う?」
「え!いいの!?」
「…しゃ、べった!」
白熊が、熊が、喋った。
二足歩行の時点で突っ込むべきところはあるけど、それよりも衝撃的だった。
思わず、俺は声を上げる。
「すげぇっ!!」
「すみま…ぇ?」
白熊がしゃべるんだぜ?
すごい以外言えないじゃん!
「すげぇじゃん!はじめて白熊が喋るの見たよ!」
いっそ感動といったほうがいい!
「…あ、ありがとう」
白熊が照れた。
待てよ、喋れるなら、パンの感想とか聞けるよな?
白熊オススメのパン。
これ、いけるな。
「あのさ、このパン食べた後感想とか聞いてもいい?」
「うん。いいよ」
「助かるっすよ。
実はこれ、試作品でさ、どれが美味しいかこれから、決めるところだったんだ」
バスケットごと白熊に渡す。
「バスケット返すついでに感想聞かせてな」
「アイアイ」
なんだが、白熊のイメージ変わりそうだ。
こいつ、かわいいや。
バスケットを持って去って行く白熊の背中には、胸マークと同じマークがもあった。
…どっかのサーカス…じゃないな。
五年前まで、嗅いでいた血と硝煙の匂いがした。
それにあのマークは、だいぶアレンジしてあるけど、ジョリー・ロジャーだし、…海賊、かな。