『会ったことがないか?』の問に対して、思い出したら、なんて微妙な答えをした癖に、しっくりこない。
 たぶん、思い出してもらいたいんだと思う。


 せめて、ゆっくりと話せたらな……


 不良の頂点となった六道骸とは、あれ以来話話していない。
 その以前に会えないと言う状況。


 どちらにしても、今はまだ話せないだろうけど。
 ちゃんと話せる様になればいい…。
 六道骸が纏う業火。

 あれがある限り、真の意味で俺は話せない。


 でも、だ。
 俺が勝手に思い出してもらいたいと思っているわけで、その俺が何一つせずにただ待っていると言うのは虫がいい話。
 それはだめだろ?

 何事も挑戦っていうしな。
 やってやろう。

 授業中の俺は体を残して意識を飛す。
 六道骸の元に。
 瞬時にたどり着く。
 魂は千里を、というがそれは実に正しい。
 意識だけの俺は、扉一枚を挟んで六道骸の前に立つ。


 やたら廃れた場所。
 どこだ?

 体を有幻覚て構築する。
 ほぼ扉の役目を無くしたドアを開き、中に足を踏み入れる。


 幻覚の桜が見事に咲き誇る。
 桜が舞い散る中に、二つの影。
 一人は優雅に笑う六道骸。
 一人はその六道骸を射殺さんばかりに睨み付けている他校生。
 彼はボロボロだ。
 十中八九、六道骸がやったんだろう。

 まじに何をしているのか。


「おや?君ですか?」
「数日会わないだけで、俺の名前を忘れたのか?ちゃんと自己紹介しただろ、六道骸」
「クフフ…忘れてませんよ、


 思わず溜め息が出る。
 遊ばれているんだろうな…

 ゆっくりと六道骸の三歩手前まで足を進める。

「お前と話しに来たんだけど、いい?」
「えぇもちろん、構いませんよ
 こちらをすぐに終わらせますので、待ってて下さい」

 即座に六道骸は他校生を落とす。
 そのまま引きずる様にして、別の部屋に運んでいった。

 ちらりと見ただけが、骨があちこち折れている。
 それに加えて大量の打撲。

 徹底的に潰してある。
 なのにあの他校生から感じたのは怒り。
 純粋なまでの殺気。

 目を見張った。
 こういう奴は滅多にいない。

 俺が感心している内に六道骸は彼を置いて戻ってきた。


「お待たせしました。
 では、ゆっくりとお話しましょう」
「ゆっくりと、話せるのは嬉しいけど、それ、お話しに必要?」

 目の前に一歩分だけの距離を空けて立つ六道骸の手にはに見慣れた武器。三叉槍の先端が握られている。

「えぇ、必要ですよ」
「俺、丸腰なのに?」
「クフフ…ちょっと傷つけるだけですから、大丈夫ですよ。
 ですから、あまり暴れないで下さい。暴れると少し痛いことになりまりますよ」
「……まぁいいけど、今、俺は丸腰だし」


 いくら有幻覚といっても、幻覚だから肉体を傷つけることはできない。
 丸腰とは体もないと言う意味も含めているが、六道骸は目を細めて笑い、気付いていないみたいだ。


 楽でいいけど…曇ってるな…


 六道骸が本来もつそれはこんなものじゃない。
 濁って見えなくなっている。

「やっぱり、は変わった人ですね。
 …わざと己の人物像をあやふやにしたり…ね」
「……あやふやでいいんだよ…すぐに忘れ去れる存在でいい…てか、気付いていたんだな」

 結構、うまく隠していたんだけどな。
 俺は肩をすくめる。

も気付いていたでしょ?
 僕と彼らの関係に」
「城島犬と柿本千種が部下だってことにか?
 あれだけ目の前でやり取りしてて気付かないわけないだろ…
 まぁ…とにかくさ。それで傷つける前に本題に入りたいけど、いいか?」

 未だにお互いの距離は一歩分しか空いていない。
 確実に六道骸の間合いだ。

「いいでしょう…代わりに話し終わったときは大人しくしててくださいね」
「暴れたところで無意味だから、やらんよ…」

 俺の答は六道骸を満足させた様だ。
 これで本題に入れるってもんだ。

「『会ったことがないか』という問いに対しての答の訂正に来た」
「答の訂正…ですか?」
「…あぁ…。どうも俺は、思い出して貰いたいらしくてな。
 だから『会ったことがある』と訂正する」
「…訂正したからといって、僕が思い出すとでも?」
「思い出して欲しいのさ。その為の訂正だ」
「…僕は…もう、思い出すつもりはないですよ…
 何より、とは日本で初めて会ったんです。
 思い出すことなんてなにもないんです…話はこれで終わりです、ね」

 終りと言う単語と同時に三叉槍を持った手が動く。
 多少痛いと言っていたはずだが、どう見ても多少で済むとは思えないほど、深く腹に刺さっている。


 流れぬ血。刺した感触も伝わらなかったのか、六道骸は目を大きく見開く。


「言っただろ?『丸腰』だって…」
「これはっ…幻覚!」
「…正解。やっぱり話だけじゃ無理か…」
「いったい、いつから…」
「はじめっからだよ。
 次はちゃんとくるか…またな」


 構築していた幻覚を解く。
 瞬時に体は形を無くす。

 目を開ければ、変わらぬ授業風景。

 この後は、さぼりかなぁ…


わがままだと自覚があるから、貫こうと思う