旧校舎を壊すために、何やらガヤガヤやっているらしい。
 同じクラスの谷山さんと黒田さんも、顔を出しているらしい。

 らしいばかりなのは、あくまで勝手に耳に入ってきた情報だからだ。
 積極的に知ろうとは思わない。

 あぁ…でも。

 あと一日…一日以上いるようだったら、声をかけておこうと思う。
 危ないから。

 具体的に何がどうってわけじゃない。
 ただ、あそこは『倒壊する』。
 それがわかるだけ。

 理由とか、そういうものはない。
 本当に「なんとなく」。
 だけど、多分、外れないもの。

 そういえば、今朝登校したとき、顔の綺麗な男の子を二人見た。
 そっくりな顔。
 でも、表情は真逆だった。

 ちょっとだけ、二人の距離が遠そうに見えた。
 遠いけど、大丈夫。
 うん。

 『谷山さんがいるから大丈夫』

 いつもと同じように曖昧な、理由のない、「なんとなく」だけど、そんな気がする。
 だから、大丈夫。



 結局、ガヤガヤやっていた人たちは『倒壊する』前に校舎を離れていった。
 声をかけずにすんだらしい。

 のっそりと、授業を受けながら、もうすぐ倒壊するな。と思った矢先、谷山さんが立ち上がる。
 そのすぐ後に、倒壊の音が校舎に、教室に響いた。

 誰もが呆然と崩れた校舎を見る中、自分はポツリと誰にも聞かれない音量で呟いた。


「お疲れ様…」

 多分、それがきっかけだったと思う。
 谷山麻衣って人を覚えたのは。

 折角の休日なので、道玄坂まで足を伸ばして、人込みをぶらぶら。
 なんで、ピンポイントで道玄坂に来たかはわからない。
 やっぱりこれもなんとなく。

 そんな中、不意に視線を向けた先に、彼女がいた。
 そしてまた、彼女も此方に顔を向けて、私と彼女の視線が絡まった。

「こんにちは、谷山さん」
「…えーっと、こんにちは?…どなたでしたっけ?」

 そういえば話したことなかったけ?

実は同じクラスなんですよ。