へぇ…この隈男、『オークション会場』の意味を知っているのか。
前半の海じゃ、オークション会場っていってもわからないやつが大半だってのに、意外だな。
それに場所も把握しているっていうのは、元関係者か、それとも、現役か。そのどちらかだろうが…様子を見る限りは、前者っぽいか?
「……どこにあるか教えてもらってもいいっすか?」
「教えるだけなんてケチくせぇことはしねぇよ。連れて行ってやるよ」
隈男が楽しそうにニヤニヤと笑う。
「いや、いいっすよ。
十分と気まぐれに助けて貰ったっすから」
それにここから先は、俺が始末をつける理由ができちまったからなぁ。
予定外というか予想外っていうか…俺を出しにくれた礼は返さねぇといけねぇ。
「遠慮することはないんだぜ?」
「…遠慮じゃないっすよ」
つーか、俺の邪魔になる。
「……っち…まぁ、いいだろう」
俺から仄かにでた殺気に隈男は顔をしかめて、了承の意を示す。
危機管理能力があるっていうのは、大事なことだと思うぜ、隈男。
「ただし、条件が一つある」
「…条件っすか?」
…この場合は仕方ねぇか。
無理な条件をふっかけてこなきゃ、まぁ、それなりに呑んでやるさ。
「パン屋の店員。お前の名前を教えろ」
―――…っ
「ぶはっ!…ちょ、条件が名前って…っぷ…それ条件っていわないっすよ!」
どんな条件かと身構えてみりゃぁ、意外過ぎってか、なんつーか、っぷっぷ…随分と可愛いじゃねぇか。
不意打ちだった発言に思わず涙が出るほど笑っちまった。
サングラスを外して、目じりに溜まった涙を拭う。
「あー久々にツボにハマったっすね…で、俺の名前だっすね。
俺の名前はシャチっすよ、海賊の船長さん」
隈男って呼んでやろうかと思ったけど、借り一つあるから、海賊の船長と呼んでやる。
「随分と素直に教えるじゃねぇか。
…あれだけ俺たちを警戒…いや、興味がなかった割に、といった方がいいか?」
「あはは、よくわかったっすね。
別に海賊さんたちだけがってわけじゃないっすよ…俺は、基本的に誰にも興味がないっすから」
そういう意味じゃ、隈男に白熊、ペンギン男は、多少なり興味が湧いた方だと言える。
隈男は相変わらず、口元だけ笑い、後ろにいる白熊は首をかしげるばかりで話についていけない。一方ペンギン男は…警戒でも、不機嫌でもない、何とも微妙な視線をよこしている。
視線は気にはなったが、どうせここでおさらばになる関係だし、別にいいかと、特に問いただすことなく本題に戻す。
もう、条件は言った。
あとは隈男から場所を聞くだけだ。
「あぁ…だいぶ吹雪いてきたっすね…早目に片づけたいんで、場所、教えてもらってもいいっすか?」
「いいぜ、『シャチ』」
教えたばかりの名前を楽しそうに口にする隈男は、そのままオークション会場について語る。
「オークション会場はあの町の地下。
そして、お前が働いていたパン屋…あそこがオークション会場への入り口だ」
意外であると同時に、やっぱりかと、妙に納得できた。
「意外と近くてラッキーっすね」
「ふん…薄々気づいていたってところか。
…俺は最初、パン屋の店員が人攫いか、入口の門番かと思ってたがな」
思わぬ告白に、顔をしかめる。
「あ゛ぁ…そりゃないっすよ…
あんなチンピラと一緒にされるほど、落ちぶれちゃいないっすよ」
「…あぁ、そうだな。
チンピラなんて可愛い小魚じゃなく、もっと凶暴な生き物(シャチ)だったな」
この辺あたり海じゃ、シャチを海のギャングなんて呼ばれているから、たぶん、この隈男にしちゃ、褒め言葉なんだろうが…
海王類を見知っている俺には何ともな…微妙なんだよな、それって…
「ま、とにかく、会場と入口を教えてくれて感謝っすよ」
さっそく町に戻ろうと一歩後ろに足を下げ、身体を後ろに向けたところで、借りを返していなかったことに気付き、そのまま…中途半端な姿勢で止まる。
ここでおさらばするなら、借りもここで返す必要があるよな。
肩越しに少しだけ振り返る。
「あー…そうそう、それと明日は海軍の巡回船が来る日だ。
今夜中に町を出ていった方がいいぜ」
隈男が怪訝な顔をするが、そのまま話し続ける。
「気まぐれに助けられたのは本当だし、それなりに海賊だってのも見せて貰た。
それと借り一つ。その分をここで返却させてもらおうと思ってな。
…精々捕まらないように頑張ることだな、海賊」